あぶらの話
管理栄養士 齋藤 加奈子
健康診断で脂質の値が高いと言われたことはありませんか?「脂質の値を指摘されても、何をどうしたら良いのか分からない」、「そもそも脂質が多いってどういうこと?」、「油なんてそんなにとってないのに・・・」と思う方も多くいるはず。
今回はそんな悩ましい存在「脂質」、つまり「油」に焦点を当ててお話します。
そもそも何が違う?血中のあぶらの種類
健康診断で調べる油は「総コレステロール」、「LDLコレステロール」、「HDLコレステロール」、「中性脂肪」の4つです。これを大きく分類すると、コレステロールと中性脂肪になります。食事に含まれる油にはコレステロール、中性脂肪のどちらも含まれているので、油の多い食事には注意が必要です。まずはその違いからご説明します。
○コレステロール
HDLコレステロール、LDLコレステロールと、あたかも2種類のコレステロールが存在しているかのように思われますが、実はコレステロールという物質は1種類のみです。
HDL、LDLとはコレステロールを体内に運搬する「リポ蛋白」と呼ばれる粒子の種類のことです。つまり、LDLコレステロール=LDLによって運搬されているコレステロールという意味になります。では、このリポ蛋白の違いについて説明します。
◎LDL
全身にコレステロールを運ぶ役割があります。しかし、コレステロールが血中で余ると血管壁の油の塊(プラーク)の主な原因となることから、LDLコレステロールは一般的に「悪玉コレステロール」と呼ばれます。とる油の量が増えるほど、体内に運ぶ量が増えるため、結果的に血中のLDLコレステロールが高値となります。
◎HDL
全身の余分なコレステロールを回収し、肝臓へ運ぶ役割があります。不足すると回収が間に合わず、血管の壁の油の塊をつくる余ったLDLの仕事(動脈硬化の進行)が進んでしまいます。一般的に「善玉コレステロール」と呼ばれています。有酸素運動が増加の刺激になると言われています。
コレステロールは体内で細胞膜やホルモンの材料となるため、体にとっては不可欠な物です。また、食事で摂取されるイメージがありますが、必要量の70~80%は肝臓を中心に全身で合成され、食事で摂取する必要があるのは残りの20~30 %となります。摂取するコレステロールの量によって肝臓は合成するコレステロールの量を調節することができますが、過食や運動不足、加齢により体内での調節機能が弱まると、脂質異常症をきたします。
〇中性脂肪
大部分は食事から取り入れ、一部は肝臓で合成されます。食事由来の中性脂肪、肝臓由来
の中性脂肪の総量が血液検査の数値となります。肝臓や脂肪細胞に蓄えられ、絶食や運動によりエネルギーが不足すると貯蔵した脂肪を分解しエネルギーとして利用します。油のとりすぎで増えるイメージがありますが、実は糖質の過剰摂取でも増加します。また、血中の中性脂肪が増加すればするほど、HDLコレステロールが低下していくことも知られています。とりすぎると貯蔵した脂肪が増えるため、脂肪肝や肥満の原因にもなります。
見た目が油っぽい食べ物はわかりやすい
ところで「油が多い食事」と聞いてどんなものを思い浮かべますか?揚げ物に代表される調理用油を使った食べ物、ラーメン、マヨネーズ、ドレッシングなど、いかにも油の多そうなものは色々ありますよね。たしかに、これらには油が多いので、食べ過ぎに注意が必要という事実に変わりはありません。しかし、見た目以上に油を多く含んでいる食品も身近にたくさんあります。
健康的なイメージの中に潜む油
コレステロールや中性脂肪が高値だった患者さんの栄養指導をしていて、気になる食習慣の特徴は、「乳製品」を過剰に摂取していることです。
「体に良いから毎食必ず牛乳を飲んでいる」、「朝食のパンにはバター。チーズとヨーグルトも欠かせない」と乳製品に健康的なイメージを持って食事をしている方が多いのが現実です。乳製品の美味しい十勝ならではですよね。厚生労働省の統計調査では北海道の乳製品の摂取量は全国平均を大きく上回っています(栄養素等摂取状況調査より)。
なかでも牛乳はさっぱりとした飲み口のものも多く、「油をとっている」なんて感覚はありません。確かに、タンパク質やカルシウム、ミネラルを多く含んでおり、非常に栄養価の高い飲み物です。しかし、牛乳コップ1杯(200ml)には約7.6gの油が含まれており(日本食品成分表2021より)これはサラダ油小さじ約2杯分に相当します。
余談ですが、私の小学校には「牛乳じゃんけん」というものがありました。じゃんけんに勝つと余った牛乳をもらえるもので、勝った子は牛乳を2~3個飲んでいた思い出があります。栄養士になった今これを考えてみると、牛乳2~3個、400~600mlでとる油は15.2g~22.8gに相当するため、脂質やカロリーから計算すると過剰摂取でしたね(笑)。思い返せばじゃんけんで毎回勝っていた子は、学年で1・2を争う程の体格でした。
以前の栄養士のコラムにて、病院食ではカロリーの調整のほとんどを主食量の増減で行っている、という話がありました(コラム「入院ダイエット」参照)
年齢とともに体の代謝や活動量が低下するため、「毎食の牛乳」や「毎日のヨーグルトにバター」は過剰摂取の可能性があります。脂質の値の高さを指摘された場合は、食事の内容を見直し、量や回数を減らしてみましょう。
また、油の量が調整された成分調整牛乳や低脂肪牛乳等も一般的に流通しているため、商品の選び方から工夫してみるのも良いかもしれません。