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病気について

消毒薬で感染予防

2021年12月3日

ICU病棟看護師 工藤 蓮可

子供の頃、転んで膝を擦りむいたとき、母が傷口にシュワシュワとした消毒液をかけてくれた記憶があります。当時は、その液体の正体は何なのかは分かりませんでした。実はその正体は、「オキシドール」という、過酸化水素水(H₂O₂)を薄めた液体だったのです。オキシドールは殺菌消毒薬といって、酸素の泡を放出して洗浄作用を発揮します。原液または、2~3倍稀釈して塗布、洗浄をすることで効果があります。

今年一番で売れたのは消毒薬

新型コロナウイルス感染の流行に伴い、世界で消毒薬が売れています。今年の10月の読売新聞には、売れたものランキングが掲載されており、マスクや殺菌消毒剤など、感染防止に絡むものが上位を占めていました。また、全国のコンビニエンスストア、ドラックストアなど4000店での今年1月~10月、の販売データを集計すると、手指消毒剤は売り上げが9倍以上伸びたとされています。(読売新聞から)

一番使用されている「アルコール」

一番よく目にする消毒薬はアルコールであり、その代表は「エタノール」です。最近お店に入る前に設置されている消毒薬は、ほとんどがエタノールを主成分としているものです。アルコール消毒液は病原体の蛋白を変性することによって効果を示します。病院での採血の前に針を刺す部分の消毒に使用されるのは、エタノールを含んだ「酒精綿」です。

効果のあるエタノール濃度

お酒のビンや缶の裏にはアルコール濃度が表記されていますよね。エタノールも様々な濃度の物が売られています。これまで厚生労働省は、新型コロナウイルスには原則70~83%濃度のエタノールが有効であるとして推奨していました。しかしエタノール製剤が入手しなくなったこと、米国疾病管理予防センターが60~95%を推奨していることから、60%台のエタノールを使用しても差し支えない(一定の有効性がある)としました。購入するときの目安にして下さい。

手洗い VS アルコール消毒

新型コロナウイルスの感染予防で効果的なのは何でしょう?2002年米国疾病管理予防センター(CDC)は、医療施設における手指衛生のためのガイドラインを公開しました。これはエビデンスに基づいたものであり、手指衛生を大きく進歩させるものでありました。このガイドラインの中では、手が明らかに汚れていなければ、アルコール手指消毒液を日常的に使用し、手が明らかに汚れているか、蛋白性物質で汚染された場合には石鹸と流水で手洗いをすることを推奨しています。
病院においてアルコール手指消毒液が石鹸と流水の手洗いよりも優先的に使用される主な理由には以下のものがあげられます。

①石鹸はかならずしも手に優しくない

看護師の85%が手洗いを頻回に行うことで皮膚障害を経験しているという報告があります。そこで、保湿剤を含むアルコール手指消毒液の使用が推奨されるようになりました。

 

②アルコールは石鹸と流水の手洗いよりも殺菌力が強い

普通石鹸と流水で手を15秒間洗っても、皮膚の細菌数は1/4~1/12にしか減少しません。30秒間でも1/63~1/630の減少とのこと。一方、アルコール手指消毒液は、30秒後で手指の細菌数を1/3000に減少させ、1分後には1/10000~100000まで減少させることができます。

 

③アルコールは手指衛生に必要な時間を短縮できる

手洗いに比べ、アルコール手指消毒液は、各患者のベッドサイドに置かれたものを使用することで、時間が1/4に短縮できます。

各部屋の前に設置されている消毒薬

 

④アルコールは手指をすばやく乾燥させる

完全に乾いた手よりも、湿った手の方が微生物を容易に移動させるとのこと。そこで、アルコール手指消毒液を使用すれば、すばやく手を乾燥させるため、手指が濡れたままにならず、微生物の移動を防ぐことができます。

肩からかけるMy消毒剤

 
あくまでアルコール消毒は病院内での推奨です。アルコールに弱い方もいますし、自宅ではまず手洗いは基本中の基本です!!

茶色といったらイソジン

色のついた消毒液で思い浮かぶのはイソジンかも知れません。傷口に塗る物、うがい薬があります。イソジンは別名ポピドンヨードと呼ばれ、ヨウ素が含まれており、微生物細胞成分を酸化させ細胞破壊をすることで殺菌作用を発揮します。速効力があり、多くの微性物に対して効果を持つ消毒薬です。手術室ではよく用いられています。

 

アルコールやイソジン以外にも、多種にわたる消毒液があります。アルコールアレルギーの方には「クロムヘキシジン」を用いて消毒することが多くあり、その酒精綿も採血の場所には置いてあります。クロムヘキシジンはエタノールより効果が少し弱くなりますが、皮膚に対する刺激が少ない生体消毒薬です。

小分けで清潔、外用消毒剤

大きな容器に入った消毒液は、蓋の開け閉めが頻回になると、完全に清潔でない操作(医療用語では「不潔」って言います・・・)になってしまうことがあります。そのため小分けにされた消毒剤もあり、頻用されています。

 

最近はどこのお店の入り口にも手指消毒液が置いてあり、自動噴射タイプのもありますね。しっかり手に塗り、30秒もすれば殺菌効果が十分得られることが分かると、積極的に消毒しようと思いますよね。私も何気なくしていたアルコール消毒の時には、エタノールの濃度を確認するようになりました。