救急車のはなし
とかち広域消防局芽室消防署 救急救命士 與佐田 俊介
「ピーポー・ピーポー・ピーポー」
救急車がサイレンを鳴らして走っていくと、車は道路脇に止まり、歩行者は振り返ります。あなたは救急車に乗ったことがありますか? または呼んだことがありますか?
この十勝総合振興局を管轄する「とかち広域消防局」管内において、令和2年の救急出動は13,352件、1日平均では約37件の救急出動がありました。なんと約30人に1人が搬送されている計算になります。十勝管内で救急車の「ピーポーサイレン」を聞かない日はありません。このサイレン音は消防車やパトカーより頻繁に聞こえるため、サイレンを鳴らして走る緊急車両の中でも、救急車はどこか身近な存在ではないでしょうか。
救急車ってどこにあるの?
救急車に乗って仕事をしている私たちにとっては、当たり前と思っていましたが、意外と知られていないことに広報不足を感じます。一般的な救急車は「消防署」にあります。そうです、火事のときに火を消す「消防車」のある消防署です。救助隊やレスキュー隊と呼ばれる人が乗る「救助工作車」や「はしご車」も消防署にあります。ちなみに救急車の値段は1台約4,000万円もします。積載している医療機器が多く、車両本体より高いのです。
救急隊は誰?
救急車に乗っている人は誰でしょう。答えは「消防局の職員」です。とかち広域消防局は十勝総合振興局の19市町村が共同で運営する地方公共団体ですので、「地方公務員」となります。市役所や役場の職員、公立の学校の先生と同じですね。
消防職員の中で階級を有し、救急車や消防車に乗って活動する人は「消防吏員」と呼ばれており、中でも救急に関する教育を修了した「救急資格者」と、国家資格である「救急救命士」の有資格者が救急業務を担当しています。
芽室消防署では救急隊は専任化されておらず、火災があれば消防車にも乗ります。幼稚園や学校の避難訓練にも行きます。そして、給料を含め運営はすべてみなさんが納めた税金でまかなわれています。
救急救命士が出来ること
人気俳優が出演する医療ドラマなどでは、救急隊がたびたび現れます。が、「1、2、3」の掛け声でベッドを移動させて、そそくさと映像から消えてしまいます。救急車に乗る者として、もう少し注目して欲しい気持ちがあります。是非救急隊にもジャニーズを起用してください。
さて病院に着くまでに救急隊は何をしてきたでしょうか。大原則は傷病者(患者さんのこと)の症状を悪化させることなく、医療機関まで搬送することです。五感、時には第六感をフル活用し、まず病気やけがの状況を把握します。心電図や血圧計を使用して客観的評価を行い、必要であれば「止血」や「固定」を行い、傷病者の状況を医療機関へ伝え、受入れの可否を確認し搬送を行います。救急救命士は、必要に応じ医師に指示の元、空気の通り道を良くするための「気管挿管」や、点滴のための「静脈路確保」、強心剤の一種であるアドレナリンや低血糖発作改善のためのブドウ糖投与などの「薬剤投与」を行うことが出来ます。医療ドラマで見かける「電気ショック」(正式には除細動)も、救急隊に認められている処置のひとつです。
どの処置も病院到着後に行うより、救急隊が現場で行った方が患者の予後が良いと認められたことから、救急救命士が行うことの出来る処置が拡大してきました。
なぜすぐに現場を出ないの?
総務省のデータでは、救急車は要請から現場の到着まで全国平均で8.7分を要します。この短時間でも待っている方にとっては長く感じてしまうかもしれませんね。さらに病院到着までは平均39.5分を要します。傷病者を救急車内へ収容した後、救急車が現場を離れないことに疑問を持たれている方も多いと思います。実際救急活動を行っていると、傷病者や家族などから「何をしている早く運べ。」とやや厳しい口調で言われることもあります。傷病者や家族の立場になると、その気持ちは十分理解できます。救急隊は必要な処置を行い、病院到着後にすぐに治療が開始できるように、詳細な状況を病院へ連絡し、受入れの可否について問い合わせをしているのです。受入側の病院が常に空いているとは限りません。すぐ現場を出られない事情にどうかご理解ください。
ためらわない救急要請を
医療資源は無限でなく、タクシー代わりの利用、不要不急な救急車の要請は控えてください、とお願いしています。しかし、「いつもと状態が違う」、「様子がおかしい」場合は不要不急ではありません。例えば、呼びかけに反応せず普段通りの呼吸をしていない場合は「心肺停止」を疑います。胸が苦しい場合は「狭心症や心筋梗塞」を、頭がバッドで殴られたように痛い場合は「クモ膜下出血」を疑います。このような死に直結する病気は少なくありません。ためらわず119番へ通報してください。救急隊は常に最悪な状況を想定し、万全の体制で現場に向かいます。
火事と救急は同じ「1・1・9」番
日本国内での消防・救急救助の要請は、電話で119番を押して下さい。携帯電話、スマートフォン、固定電話を問わず、最寄りの消防機関の緊急通報を受理する「指令員」が応答します。「火事」なのか「救急」なのか、をまず伝え、指令員の質問に答えてください。住所が特定出来ないと、出動に時間を要することがあります。緊急時には誰もが焦ります。日頃から自宅や勤め先の住所、目標となる建物などを確認しておきましょう。
住民の安心・安全のために
緊急出動に備え、日頃から訓練や鍛錬は欠かせません。体力作りだけでなく、医療知識や技術の向上を目的として、救急救命士は病院実習も行っています。医療者と互いの仕事を理解し合い、顔の見える関係構築は重要です。また搬送した傷病者(患者さん)が、その後どんな診断がつき、どう治療されたか振り返る勉強会も北斗病院の医師と定期的に行っています。
「住民が安心・安全に暮らす」ことが、病院・消防の共通の目標です。私たちの仕事を少しでも知って頂けたら幸いです。