血液の色を変えるマシーン
臨床工学士 鈴木 卓磨
血液は赤かったり黒かったりします。なぜ血液の色に違いがでるのでしょうか?
血液の中には酸素(O2)を全身に運んでくれる、スーパーロボットの「ヘモグロビン」と、それらを輸送するためのボート「赤血球」が存在します。このスーパーロボットのヘモグロビンは「鉄」が成分となっています。鉄はさびると赤くなりますよね。これはO2と鉄がくっついて起こる「酸化」という現象で、ヘモグロビンも酸化されると赤くなります。
もともと赤血球のボートは赤みを帯びていますが、O2を持ったヘモグロビンが多く乗った赤血球は、鮮やかな赤色となります。血液という川の液体成分は本来黄色ですが、この赤血球の赤みで赤い血液に見えるのです。
でも採血や献血の時に「自分の血液黒っぽいけど大丈夫かな?」と思ったことがありませんか? 採血や献血は静脈からとられることが多く、静脈に流れる赤血球の中のヘモグロビンは、O2を運搬し終え元の黒い鉄の色に戻っているため、血液全体が赤黒い色に見えるのです。
血液の港「肺」
輸送ボート「赤血球」に乗った「ヘモグロビン」は、肺で呼吸により吸い込んだO2を積み込みます(酸化される=鮮やかな赤色となる)。肺を出発したボートは、左の心臓のポンプの力で押され、全身へO2を運搬します。各組織ではO2が使われ、代わりに二酸化炭素(CO2)が作られます。ヘモグロビンは一部のCO2を積み込みますが、多くのCO2は血液の川の中に形を変えて流れていきます。
COVID-19とECMO(エクモ)
最近コロナウイルスのニュースを聞かない日はありません。またコロナウイルスによる肺炎の重症化で「ECMO:エクモ」が必要になった患者さんの話も珍しくありません。さて、実際にECMOとはどういったものでしょうか? 港である肺が炎症を起こすと、CO2を上手く下ろせなくなります。またそれに伴ってO2を積み込めず、全身の組織に大切なO2を運搬できない状態に陥ります。
このままでは命の危険が出てきます。そこでまずは人工呼吸器を使用して、O2を多く送り、CO2を多く捨てられるようにサポートしますが、肺という港が大きく破壊されてしまうと、人工呼吸器も効果が十分でありません。そこでECMOを使用し肺という港を休ませ回復を待ちます。ECMOとは日本語で「体外式膜型人工肺」のことです。血管に挿入したチューブから体外へ血液を運び出し、人工肺へ送り込みます。人工肺は肺と同じようにO2とCO2の積み下ろしを行い、体に血液を返します。
心停止は死?
心臓が止まると、心電図の波形がフラットになり、死亡ということになります。でも心臓の手術中にも心臓が止まり、心電図がフラットになることがあるのです。これは特殊な薬を使って、意図的に心停止を起こしています。心臓の手術では、心停止をさせなければできない手術もあります。その間に心臓と肺の代わりになっているのが「人工心肺装置」です。
この人工心肺装置はECMOの元となった装置です。心臓や血管に挿入したチューブで、体外へ血液を運び出し、人工肺でO2とCO2の積み下ろしを行い、体に血液を返す仕組みはECMOと一緒ですが、手術中の出血も吸引チューブから回収し、再利用できるすごいマシーンです。
この装置は我々臨床工学技士が操作します。最近の医療ドラマでも時々登場しているので、意識して観てもらえると嬉しいです。