「血サラサラ」の勘違い?
薬剤師 岸下 直哉
狭心症や脳梗塞などを患っている方の多くは、「血をサラサラ」にする薬を服用しています。病院で患者さんに対応する際、「血をサラサラ」にする薬は、「血の塊を溶かす薬?」「コレステロールを下げる薬?」と、よく質問を受けます。
確かに、「ドロドロ」の反対が「サラサラ」なので、言葉のイメージから薬を判断しているのかもしれませんね。
「血サラサラ」薬の仕組み
「血サラサラ」にする薬=血の止まりを悪くするお薬です!大きく分けて、「抗血小板薬」と「抗凝固薬」の2つがあります。 「バイアスピリン」や「ワーファリン(またはワルファリン)」といった薬を聞いたことがありますか?バイアスピリンは「頭痛にバファリン」で有名なアスピリンという薬です。またワーファリンは「納豆食べちゃだめ」で有名な薬です。
ワーファリン錠 (右)
血管が切れて血が出ると、その出血を止めるために、血液は二つの工程をとります。まず「血小板」が血栓を作って血管の傷口を塞ぎます。それだけではとても不安定なので、そこに「凝固因子」と呼ばれるタンパク質で作られたフィブリンの網が補強するのです。
バイアスピリンは、「血小板」の働きを抑えて「血をサラサラ」にする、抗血小板薬という仲間に分類されます。主に狭心症・心筋梗塞、脳梗塞などで使われます。
ワーファリンは、「凝固因子」がフィブリンの網を作っていく過程で必要となる、ビタミンKを抑えて「血をサラサラ」にする、抗凝固薬という仲間に分類されます。主に不整脈(心房細動)、弁膜症治療後の患者さんなどに使われます。
私たち医療従事者はこれらの薬をまとめて「血サラサラ」にする薬と言っています。
2つの勘違い
血液中の「脂」、つまり悪玉コレステロールや中性脂肪を抑える薬も「血サラサラ」と勘違いしている患者さんもいますが、これらの薬は脂を抑えるだけで、基本的には「血サラサラ」の働きはありません。しかし、例外もあります。これが困るのです。脂を抑える薬の中でも、一部に「血サラサラ」にする作用を併せ持つ薬もあるのです。例えば、「ロトリガ」や「エパデール」などといったお薬がそれに当たります。病院で薬のことを質問されたときに、全ての薬の効能についてはなかなか言えませんよね。一度お薬の説明書やお薬手帳で、自分が内服している薬を確かめてみてください。
また重要で知っておいてほしいことがあります。薬を止めていいかどうかです。例えば狭心症に対して、「心臓の血管にステントを入れて治療した」とか「冠動脈バイパス手術をして、新しい血管をつないだ」という場合、もう「血サラサラ」の薬は必要ないでしょ!と勘違いしてしまいがちです。いいえ、「血サラサラ」にする薬の目的の主は、病気の「進行予防」「再発予防」なのです。自己判断による服用の中止は、病気が悪化してしまい、とても危険です。
歯科治療や出血の多い手術を受ける際は、「血サラサラ」の薬を一旦お休みする事があります。必ず内服している件を伝え、指示に従って下さい。
私たち薬剤師は、お薬のことを誰よりも知っている、薬のプロです!
お薬に関して何でも疑問に思われた際は、ぜひ薬剤師に遠慮なくお尋ね下さい!
実際に薬剤師が受ける「質問あるある」
質問① 「私、血サラサラの薬飲んでいるのだけど、納豆は食べちゃダメだよね?」
薬剤師:「ワーファリンという血サラサラの薬は、納豆との相性が悪く、薬の効果を下げてしまいます。それ以外の薬は、納豆を食べても大丈夫ですよ。」
解説:ワーファリンは「ビタミンK」を抑えることで血をサラサラにしています。 納豆には多くのビタミンが含まれていますが、その中でも「ビタミンK 」がとても多い食べ物なのです。このケースは特に多い勘違いです。
質問② 「おばあちゃんが、血をサラサラにする薬を2つも飲んでいるけど大丈夫ですか?」
薬剤師:「必要に応じて2つ処方されることもあります。3つ飲んでいる方もいます。ぶつけた記憶がないのに、あちらこちらに青あざができることがありますが、それがひどい時や、鼻血が止まらない時などは病院へ相談して下さい。」
解説:薬の影響で出血しやすく、血が止まりにくくなっています。特に複数錠内服している場合は、効果は増強します。高齢の方は転倒のリスクが高いため、頭をぶつけたりしないよう注意が必要です。出血が多量の時や長続きしている時は医療機関へ連絡しましょう。
質問③ 「血サラサラの薬と一緒に胃薬が出たのだけど、胃悪くないのにどうしてでしょうか?」
薬剤師:「血をサラサラにする薬の影響で、時々胃の粘膜から出血される方がいます。そのため、胃薬が処方されているのです。」
解説:胃薬は必須ではありませんが、予防的に処方されることがあります。特に、胃潰瘍などを患っている方は胃薬が必要となることが多いようです。