手術で「メス」は使わない⁈
臨床工学技士 中橋 優花
「メス」というと、一般的に刃物を想像しますよね。実は心臓手術中にメスを使って切ることは全体の1% 程度なのです。それも皮膚を切るところぐらい。メスを使うとスパッと切れ、小さな血管からジワジワと出血します。これを1回ずつ押さえ、血止めしていては手術が進みません。では何を使って切っているかというと、「電気メス」というメスの先端に熱を集中させ、その熱により患部を切開し同時に止血する道具なのです。ドラマで見る「メス!」というシーンは、手術の最初だけで、実際にはほとんどが「電気メス!」ということになりますね。
「メス」を使うのは最初だけ!
電気を流すとビリビリするのでは?と心配になりますが、医療用に高い周波数の電流を用いることで痺れることがないのです。また、対極板というシールを患者さんに貼ることで、電気を身体から機械に回収し、電流ループを作ることで、初めて電気が流れるようになるのです。
切れる仕組みは?
電気メスには「切開」と「凝固」の2つのボタンがあります。
切開ボタンを押すと、電気メスの先に電気が流れ、温度が急激に上昇します。高温になるとその付近の細胞の水分温度が一気に上昇し、やがて膨張・破裂し、水蒸気となって無くなってしまいます。これが連続で起こると、見た目にはメスで切っているかのように見えます。
凝固ボタンを押すと、切開よりも高い周波数の電流が流れ、表面の細胞が破裂するのと同時に、その下の組織にも熱が伝わります。下の組織の細胞では、温度がゆっくり上昇して、水分が消失して乾燥します。この作用を利用して、小さな血管の切り口を閉じ止血します。この時電気メスをゆっくり動かすと、表面では「切開」、少し深い組織には「凝固」つまり「止血」が同時に起こるのです。止血しながら切ることで、スムーズに手術が進みます。
電気メスのタイプ
電気メスの先端には、用途によって様々な形があります。
また電流の流し方で、手術ごとに使われ方が異なります。
「モノポーラ」:電気が電気メスの先端から、患者さんの身体を通り、対極板から機械本体へ回収されていくモード。心臓手術ではほとんどこちらを使います。
「バイポーラ」:ピンセットで挟んだ間だけに電気を流し、その部分のみで止血をするモード。小さな血管を焼いて止血する、視野の狭い脳外科や手の整形外科手術などに用いられます。
これで今日から、ドラマのワンシーンを見る目が変わりますね。