入院ダイエット
管理栄養士 後原 史歩
■よく「入院すると痩せた」という声を聞くことがありますが、なぜだと思いますか?それは、普段の食事で必要以上にカロリーを摂っているからです。肥満は心臓病など、様々な生活習慣病のリスクを高めます。病院食は患者さんに合わせたカロリーとなっているため、肥満の方はもちろんですが自分が太っていると思っていない方でも、普段からカロリーを摂り過ぎている場合は、標準体重※に近づいていくという仕組みなのです。心臓病の手術目的で入院してきた患者さんの場合、2週間程の入院で体重が平均3kgも減ります。普段の食事でカロリーを摂り過ぎていたということがわかりますね。
※ 標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22
薄味を標準化
■カロリーだけでなく、塩分の摂り過ぎも心臓病や体重増加と深く関わっています。塩分を摂り過ぎると血液の濃度が高くなるため、濃度を一定に保とうとする働きで血液中に水分が増えます。その結果、血液量が増えて血圧が上がり、心臓に負担をかける原因となり、全身がむくみます。そのため、心臓病や高血圧などの疾患がある方には、塩分6g未満の減塩食を提供しています。
厚生労働省の「国民健康・栄養調査(令和元年)」によると、日本人の食塩摂取量は1日当たり男性10.9g、女性9.3gとなっています。そのため6g未満の減塩食は、かなり味が薄いと感じてしまうことでしょう。ちなみにラーメンを汁まで飲み干すと、それだけで塩分は約9gです。
入院直後は「味が薄くて美味しくない」と言っていた患者さんも、1週間以上経つと「薄味に慣れてきたのか、美味しいです」といった意見に変わります。これは、舌の表面にある「味蕾:みらい」という味覚を感じるセンサーが関係しています。味蕾は約10日で生まれ変わるため、適切な塩分量の食事に慣れることで、味蕾が生まれ変わる頃には減塩食でもおいしいと感じることができるのです。日頃から薄味の習慣を身につけることで、生活習慣病の予防に繋げましょう。
当院での減塩食の工夫
■薄味でもおいしく召し上がって頂けるよう、当院では献立を工夫しています。全てのおかずを薄味にしてしまうと物足りなく感じるため、1品はしっかりと味をつけて他を薄味にするなど、メリハリをつけるようにしています。また、味付けは醤油や塩ばかりでなく、お酢の“酸味”や香辛料の“香り”などを利用することで、薄味でもおいしく感じることができるよう心がけています。また心臓手術のために入院された患者さんには、管理栄養士による栄養指導を積極的に行っています。
患者さんからは様々なご意見をいただきますが、「減塩食はもっと味気ない食事だと思っていた」「薄味だけど味付けが工夫されていて参考になる」といった嬉しいお言葉をいただくこともあり、感謝しております。
実はカロリー調節は簡単
■これらの理由から塩分を控え、カロリーの調節ができれば、ダイエットにつながります。でもそんな簡単な話ではない、とみなさん思っていますよね。実は病院食のカロリー調節はほとんど「白米」でおこなっているってご存じでしたか? つまり、自宅でも普段食べている白米を7分目程度に減らすだけで、簡単にカロリーの調節ができ、ダイエットにつながるのです。
病院食を参考にダイエットしてみませんか?
*ある1日の減塩食 (塩分5.8g) の例