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病気について

眠らないあなたへ

2021年10月29日

薬剤師 宮崎 恵子

 入院中に「環境が変わって寝付けない」、「途中で目が覚めてしまう」という患者さんは多くいます。これは「睡眠障害」です。入院中に限らず、退院後も睡眠障害が続くこともあり、「睡眠薬」を使用して睡眠をコントロールすることがしばしばあります。

 しかし、睡眠薬は「怖い」「認知症になる」「一度手を出すと止められない」などの悪いイメージを持たれることも多いため、正しい知識を身につけましょう。

睡眠薬のメカニズム

 睡眠薬は作用メカニズムから大きく2つに分類されます。
① 脳の機能を低下させる睡眠薬・・・従来の多くの睡眠薬はこの分類です。
  ベンゾジアゼピン系 :(例)トリアゾラム、ブロチゾラム、ベンザリン、ドラール など
  非ベンゾジアゼピン系:(例)ゾルピデム、ゾピクロン、ルネスタ など

② 自然な眠気を強くする睡眠薬・・・近年発売されました
  メラトニン受容体作動薬:(例)ロゼレム
  オレキシン受容体拮抗薬:(例)ベルソムラ

 まずは①について解説します。
「ベンゾジアゼピン」とは脳にある受容体で、ここに薬が作用することで、脳をリラックスさせ、催眠や抗不安作用を発揮します。「非ベンゾジアゼピン」は「非」とついていますが、実はこちらもベンゾジアゼピン受容体に作用します。
 この受容体には2つの種類があり、一つは催眠に作用し、もう一つは抗不安や抗けいれん、また筋肉の緊張低下に作用します。「ベンゾジアゼピン系」は両方の受容体に、「非ベンゾジアゼピン系」は前者メインに作用します。「非ベンゾジアゼピン系」の睡眠薬は、脱力やふらつきの副作用を少なくするために開発された薬です。


ベンゾジアゼピン系睡眠薬

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬

次に②について解説します。
■ロゼレム錠
 体内時計のリズムをコントロールしている「メラトニン」という物質の分泌を促す薬です。
メラトニンは20時頃から分泌されて、深夜1~2時頃にピークを迎え、明け方になると光を浴びて消えていく物質です。年齢と共に分泌量が減ると言われていて、ロゼレムはこのメリハリをつける薬です。
■ベルソムラ錠
 私たちが覚醒状態にあるときに働いている「オレキシン」という物質の働きをブロックして、眠気を誘導する薬です。

ロゼレム   ベルソムラ

 どちらの薬も生理的な物質に作用するため、依存性がきわめて少ない代わりに、作用に強引さがないので、効果や副作用に個人差が大きいとも言われています。

睡眠薬の強さ=作用の持続時間!

 「強い睡眠薬を下さい!」と言われることがあるのですが、睡眠薬の強さは、薬を服用してからどの位の時間、効果が持続するかであることは意外に知られていません。

 ここでは主に上記①の「脳の機能を低下させる睡眠薬」の話になりますが、効果が持続する時間によって主に4種類に分けられます。

●超短時間型
 服用後30分以内には効果が現れるので、寝付きが悪い方に適しています。
(例)ゾルピデム、トリアゾラム、ゾピクロン など

●短時間型
 超短時間型に比べて効果持続時間が長いため、夜中に途中で起きてしまう方に適しています。
(例)エチゾラム、ブロチゾラム など

●中時間・長時間型
 翌朝まで薬の効果が続くため、夜明けに目が覚める早朝覚醒の方に適しています。しかし、効果の持続時間が長いと朝まで眠れますが、朝なかなか起きられないことや、翌日の日中まで眠気を持ち越してしまうことがあります。
(例)ベンザリン、フルニトラゼパム、ドラール など

 まず不眠のタイプはどれかを医師に判断してもらい、ゆっくり休んで体調を回復しましょう!睡眠障害でお悩みの方は、医師・薬剤師に気軽に相談してください。

薬剤師が聞かれる「睡眠質問あるある」

Q「飲み始めると、癖になって止められないでしょ?」
→答えは「×」です。
 眠れるようになれば、お薬は必要無くなります。特に入院による環境変化で睡眠障害を起こした場合は、家に帰れば再び眠れるようになることが多いです。しかし注意してもらいたいのが、長期間服用していた睡眠薬を突然止めることです。睡眠薬の離脱症状を起こして、不眠が強まってしまうことが稀にあります。「反跳性不眠」と呼ばれるもので、「薬がないと眠れない」と勘違いしてしまうことがあります。長期間内服していた睡眠薬を止める際にはぜひ相談をしてください。徐々に服用する量を減らしていく方法や、服用する間隔をあけていく方法などをアドバイスさせて頂きます。

Q「睡眠薬飲むと呆けるって聞くけど、大丈夫なの?」
これが質問ランキング第1位かもしれません。
→答えは「×」です。
 そのようなことは証明されていません。ただし、睡眠薬を服用した後にしばらく起きて活動していると、寝つくまでの行動や会話などを忘れてしまうなどの一過性の「物忘れ:健忘」が生じることがあるので注意が必要です。これは呆けとは異なる現象ですが、勘違いされる理由の一つのようです。服用後は速やかに床につくようにしましょう。

Q「お酒と一緒に飲んでもいいかい?」
お酒がらみの質問も少なくはないですね。
→答えは「×」です。
 これは絶対ダメです。記憶が無くなってしまうことがありますので止めてください。

Q「じゃあ薬の代わりに、お酒でもいいかい?」
→答えは「△」かな。
 確かにお酒を飲むと眠れる方はいます。飲酒直後には眠くなりますが、数時間経つと眠りが浅くなり、利尿効果もあるので夜中に目が覚める原因となります。そしてお酒はご存じの通り、量が増えてしまう傾向にあります。恥ずかしながら、これは私も経験ありです。

極論は「眠れなくても大丈夫!」

 睡眠薬は用法と用量を守って服用していれば、過度に心配することはありません。でも一番良いのは、「眠れなくても気にしすぎないこと!」です。
 睡眠時間についてはあまり高い目標設定をせず、たとえ睡眠時間が短くても日中普通に社会生活が送れていれば大丈夫、と考えてください。そもそも加齢と共に睡眠の質は落ち、必要な睡眠時間は短くなります。若い頃と同じように7~8時間ぐっすり眠ることは難しいと割り切りましょう。
若かりし頃、休日となれば昼近くまで寝ていた私も、今では朝5時頃には目が覚めます(笑)。