(4)<前十字靭帯損傷>
膝関節を安定化する靭帯は全部で4本あります。
内側・外側に1本ずつ、そして、関節内の中央に2本の靭帯があります。この2本は正面から見ても、横から見 ても交差して十字になっているので、十字靭帯といいます。
前側にあるのが前十字靭帯、後ろにあるのが後十字靱帯です。この前十字靭帯は、膝関節の前後の安 定性に関与していますが、スポーツ外傷で膝を強く捻った時に損傷(断裂)しやすいです。
損傷すると、膝が徐々に腫れて、痛みを伴い運動が困難になっています。
約一ヶ月で痛みは取れますが、適切な治療を行わないと、徐々に痛み・不安定性が出現し変形性膝関節症になっていきます。
確定診断はMRIで、損傷(断裂)部を確認します。
受傷後は安静にし、患肢をできるだけ(心臓より)高くして、氷冷することが大切です。痛みの軽減に応じて、膝を曲げ伸ばすようにします。こうして、ほぼ3-4週間程度で痛みが消失し、腫れもなくなっていきます。
しかし、靱帯が損傷(断裂)したままにしておくと、膝関節の不安定性が残存します。
そのために、階段昇降時や運動時に、”膝がずれそう!””外れそうでこわい!””踏ん張りがきかなくて困る”というような症状がみられます。
このような状態で運動や重労働を続けていくと、膝を新たに捻りやすく、徐々に関節の軟骨や半月板がすり減っていき、最終的に変形性膝関節症になっていきます。
若年者では、スポーツにより再受傷し、損傷が大きくなってしまいます。
したがって、本損傷の診断がついたら可及的早期に手術的治療をおこなうことが望ましいでしょう。再受傷する前に、受傷後6ヶ月以内の手術が推奨されています。
手術方法
前十字靭帯損傷の経過
治療法としては、新たに靱帯を再建する手術が必要です。(関節内の靱帯は切れた部分を縫合しても、残念ながら十分に癒合しません。)手術方法はいくつかありますが、膝の内側にある屈筋腱(膝を曲げる筋肉)を用いておこなっています。屈筋腱を1-2本採取して、自分の組織での新しい靱帯を作り、これで再建します。前十字靱帯は2本の線維束で構成されており、本来の形(解剖学的形態)を再建することを目標とします。
膝靱帯治療の世界的権威である北大の安田前教授が開発した解剖学的二重束再建術という手術方法です。創はお皿(膝蓋骨)の周りに1cm弱の2カ所と膝下の内側に4cm程度の小切開のみでおこないます。関節鏡を用いておこないます。約2-3週間の入院治療で、退院後は定期的な通院リハビリが必要です、術後3か月はしっかりリハビリに専念しましょう。3か月は専門の装具を装着します。完全なスポーツ復帰は約1年後が目安です。